北山アゲハ

忘れないために、忘れるために、振り返る

day73

2021/2/19

週末はかなりの陽気の予報だが、スライド勤務のおかげで寒波の金曜日となる北山公園に。
アゲハの前には誰もいない。

1トライ、2トライ。
いつも通り止まらない。

「今日もあかんなあ。」と一人で佇む。

一人でいるからか、不思議と色んな人の顔が浮かんだ。会うたびに応援してくれる人達。

「登れる、登れる、止まる、止まる、登れる。」
100回以上はぶつぶつと呟く。

3トライ目。
リップ出しで完璧な場所を捉える。それでも止まらない。襲いかかる絶望感。
止める力を僕は持ち合わせてないんじゃないか?鍛え直さないといけないんじゃないか?

そしてまた、ぶつぶつと繰り返す。
「絶対登れる。」
色んな人が言ってくれた。柴沼さんのアドバイスもある。
全てを完璧にすれば登れるはず。


4トライ目。
離陸時の足置きから少しもたつく。でも登れる、自分に言い聞かせる。
リップ出しのときは心は落ち着いていて、今まで疎かにしていた左足にも集中力を割く。

パン!

人生の中で一番心地いい音が聞こえた。
たしかに感じる左手の感覚。右手をリップに寄せたときは意外と冷静で、足をしっかり見ていた。でもマントル返した瞬間立ちあがるよりも先に声が出ていた。
言葉にはならない。

「あれ、今おれは何してたんや?岩の上に立っている?登れたんか?ほんまに?」

なぜ自分がここに立っているのかがよく分からない

足の力が抜けてしばらくしゃがみ込む。
そうか、アゲハに登れたのか。

そう理解すると再び立ち上がった。
木々の隙間から大阪湾が見えている。
今まで上からホールドを観察したり、ブラッシングしたりするために岩の上に何度も上がっていたが、ここから大阪湾が見えるとは知らなかった。
いつも足元のアゲハばかり見ていた。

一度岩から降りようとしたが、もう一度その僅かな隙間から見える大阪湾を目に焼き付ける。

岩から降りてきてからもしばらく登れたことが信じられなかった。

全身の力が抜けて、マットの上に倒れ込む。


アゲハがクライミングを成長させてくれた。
アゲハが岩を楽しいと思わせてくれた。
アゲハが色んな人と出逢わせてくれた。

色んな課題を触ってたらもっと強くなったかもしれない。もっと楽しかったのかもしれない。

でもこんなに打ち込める課題に巡りあってよかった。ここまで打ち込んだからこそ得られる喜び。

アゲハに会えて幸せ。