北山アゲハ

忘れないために、忘れるために、振り返る

another16

2019 秋

9月。気温30度の灼熱の中、『泥沼』を登りに笹尾くんと。
アゲハを登るきっかけとなった課題。
成長して登れるようになっているかもしれないと思い、岩に向かう。

3年前は下部が全くできなかったが、少しはムーブを起こせるようになっていた。スズメバチに追いかけられたりもして、登ることはできなかったが、アゲハしか登っていなくても成長していることを少し感じる。

そして何より3シーズン終わって惰性になりかけていた自分に、再び喝を入れることができた。

なぜアゲハに登ろうと思ったのか。

困難に、自分の限界に、不可能と思ってしまうことに挑戦するために、登ると決めたはず。
ダラダラと北山公園に通って忘れていた感覚を取り戻すことができた。

その後は少しコンペモードに切り替え。

再びレッドブルアシュラに大阪で出場し、またしてもあややさんのおかげで3位入賞。
さらに、ミント神戸で開催されたマウンテンハードウェアカップに出場。
トップロープでスピードを競うという、あまりないタイプの大会。剛さんにビレイしてもらい、ライトアップもしてもらいながら登って、まさかの2位に入ることができた。

さらに秋が深まるとやはり岩の時期。
ゴールデンウィークぶりの瑞牆に単身で向かう。

凍えながら車中泊をして、朝から皇帝岩に向かう。『泥沼』で思い出した、挑戦する気持ち。
可能性を感じなかった『ヴォック』にトライ。

やはりスタートがあまり持てない。そして足が定まらない。スタートを握って、足を探っているうちに、チョークもなくなっていく。

それでも絶対に登るという強い気持ちで、トライを続ける。

ふとアゲハのことを思い出す。
アゲハのときは、少しでも指の負荷を減らすため、さらにはチョークを残すため、ギリギリまでホールドを持たずに、足をしっかり定めてから離陸している。
ジムではあまり意識していないが、ギリギリの状況では少しでもできることを積み重ねるしかない。
このことを思い出して、『ヴォック』でも定まりにくい足をしっかり決めてから、スタートを保持するようにした。

これがハマったのか、すぐに初手が止まる。
しかし、なかなか繋がらない。
これもまたアゲハで学んだとおり、しっかりとトライ間隔をあける。
絶叫しながら完登。
気持ちのこもった登りができて朝10時に満足感に浸ってしまう。

その後、相変わらず『阿修羅』が登れず、気分転換に普段はやらないスラブの『十六夜』に。

人気課題なのか多くの人が打ち込んでいる。
話していると通い詰めているようで、親近感が湧いてくる。
通い詰めているが悲壮感はなく、みんな笑顔の雰囲気が心地よく、セッションに混ぜてもらう。

しかしスラブは繊細で、なかなか進まない。
そこにいたお姉さんにシューズの裏を擦り合わせるとフリクションがあがると教えてもらう。
温めることはしていたが、さらに上の技術があったとは。
やはり打ち込んでいる人達は細部の細部まで研究している。

フリクションをあげたシューズでトライすると少し高度が上がった。
やはり細かい部分も重要だ。

そんなことを考えているとケイタマンこと渡部桂太さんがやってきて、軽々と『十六夜』を完登。
細かい部分も大事だが、そもそもが強いと関係ないようだ。

いや、強い選手は何年も細かい部分まで突き詰めた登りをしているから強いのか。

「結局登れないなー」と諦めかけているとセッションしていた中のムードメーカー的なエミさんが他の課題も触ろうと誘ってくれる。

せっかくなのでついていくことに。

ヒドラ』という少し高さのあるスラブ。
上部までいくと高さがあって怖くて降りてしまう。そんな中、エミさんは高いところから落ちても怯まずトライを続ける。
高さが怖くないのか。
マットの上とはいえ、落ちてダメージないのか。

聞くと「ダメージはあるけど、そんなことより登りたいから突っ込むのだ」と。
見習わないといけないが、何度か落ちると腰へのダメージが強く、諦めて近くの『水蛭子』という課題に移り、ケイタマンとセッションさせてもらう。

すると、『十六夜』の方から悲鳴にも似た絶叫が聞こえてきた。
エミさんがかけ上がっていく。
どうやらソールのフリクション上がるよと教えてくれたお姉さんが『十六夜』を登れたらしい。

魂を込めた登攀だったのだろう。
僕もそんな登りをしたい。

今回の瑞牆は改めて色々と感じさせられる日となり、長野でしっかりエネルギーを充電して、関西に戻る。