レッドブルアシュラの興奮冷めやらぬ翌週。『阿修羅』を登りたくて瑞牆に。
着いてみると『阿修羅』は前日の雨でかなり濡れていて全くたちうち出来ず。濡れていなくても登れる気はしなかったが。
何とか濡れていない岩はないかと探して『指人形』に。
誰もいない中ひたすらリップに苦手なランジを繰り返す。何度かマット外に落ちるも、岩でも飛べるんだと認識を改めることができた課題だった。
リップが濡れていて怖かったが何とか完登。
この頃は完全に岩好きになっていて、城ヶ崎の『悟空ハング』も登った。
台風近づいていて強風かつかなりの気温の中で上部に緊張感があった。
秋が深まるといよいよレッドブルアシュラ決戦の地である熊野へ。
とても豪華な舞台で運営スタッフや地元の方々には感謝しかない。
有名クライマーだらけの楽しい時間。
何より昔から応援している世界選手権で優勝したばかりの海くんがきていたのはテンション上がった。
岩場でのコンペは初めて。
初登は3pt、完登は1ptというルール。
前日の楽しいパーティーのときに配られたトポ見て、一つの岩に一目惚れした。
垂壁に近い角ばった岩で、まさに好きなタイプ。さらにこの岩には1本しかラインがない。
この頃から岩に好みも出てきていて、岩には1本しかラインがないのが好きになりがち。
一つの岩に多くのラインが引かれるのも楽しめていいのだが、この岩はここしか登りようがない、まさに弱点をついたというような課題が好き。
さらに細かい好みを言うと、岩のど真ん中を貫くラインが好き。
その好みどおりの岩を絶対最初に登りたいと前日から気合をいれていた。
ヒロキチさん、あややさんも僕の気持ちを汲んでくれる。サクッと二人が別の岩を初登してポイント稼ぐと目当ての岩に。
トポの雰囲気で行くとやや左上に抜けて真上に戻るようなライン。たしかにホールドを素直に繋ぐとそうなる。
下部のポジティブなホールドを繋げて2層の上の段にはすぐに到達。
そこで急にホールドが悪くなる。
さらに2層に分かれていることで、足が見えない。
何度もトライするが、そのリップ前の悪いホールドが捌けない。
コンペとしては、早く他の課題に移ってポイント稼ぐべきなのだろう。
だけど僕のこの岩を登りたいという強い気持ちが出まくっていたのか、二人はずっと付き合ってくれた。
登れそうなのに登れない。
体力と保持力は低下する一方。
難しいなあ、登ることはできないのかなあ。
ふとアゲハで登れない日々を思い出した。
アゲハはもっと悪いホールド、スタンス。
これが登れないようじゃ、アゲハは到底登れない。
気合を入れ直す。
再びトライ。
体が自然に反応して、今までとは全く違うムーブに。
ハイステップのキョン。
ポジティブなホールドで左上に一度迂回するのではなく、直上して左手でリップ前の悪いホールドを捉える。
そのまま身体を引き上げるもスタンスが見えずに落下。
いける。
登れない不安を吹き飛ばすことに成功。
登れると信じてトライすることが重要。
アゲハでもそれができないと登れないだろう。
少しレストして再びトライ。
再び直上するとリップ前の悪いホールドを捉える。
スタンスが見えない。
足が決まらないと、リップに出せない。
「もうちょい左下!」
ヒロキチさんが的確にスタンスを教えてくれる。
決まった。
思い切ってリップに出ると、無我夢中でマントルを返す。
大絶叫。
二人と目が合い再び大絶叫。
思わずアシュラエリア全体に響き渡るほどの声を出してしまう。
岩なのにコンペという不思議な感じで最高のアドレナリンが出た。
自分だけの力での初登ではない。
チームの力で登ることができた。
二人の期待も背負って、大好きなラインを登ることができた。
コンペの順位はどうでも良くなってしまっていた。
魂のこもった登攀。
それができたことが幸せ。
「真向鯨」
課題名を考える時間はなかったから、全国に10はあるのではないかと思えるマッコウクジラというありきたりな名前の課題になったが、岩のど真ん中を直上するという思いだけは込めることができたと思う。
後日タケトシさん達のチームにより1級がグレーディングされ、比較的トライしてくれている人がいることも嬉しい。
同じムーブで登っている人は見かけないが、キョンの狭さ、リップへの距離のギリギリ感を思うと同じ体格でないと直上はできないかもしれない。
自分に合ったムーブが出きてとても嬉しい。
いざ登れてみると後はやはりコンペモード。
しっかり3人でポイント稼ぎに専念し、何とか3位表彰台を獲得。
内容も結果も大満足で2日目のご飯を満喫。
最終日は野中生萌さん、原田海くんに混じって岩でセッションするという至福の時間を味わい、最高の3日間が終わる。
この秋はフクベでさらに岩モードを高めてアゲハに備えることに。